能登半島地震と公費解体の現状と課題 - 古民家再生 丹保建設 富山県南砺市 金沢市

能登半島地震と公費解体の現状と課題

能登半島地震と公費解体の現状と課題

2024.08.16

令和6年(2024年)1月1日、石川県の能登半島で発生した能登半島地震は、多くの住民の生活を一変させました。建物の倒壊や道路の寸断など、甚大な被害が広がり、被災地の復興は現在も依然として道半ばです。特に深刻なのは、倒壊した家屋や損壊した建物の処理問題です。これに対して、政府は「公費解体」という制度を通じて支援を行っていますが、その現状には多くの課題が残されています。今回の記事では、能登半島地震でも行われた「公費解体」について解説いたします。ぜひ最後までご覧いただき、決して他人事ではない情報として参考にしていただくようお願いします。

公費解体制度の要綱

公費解体制度は、災害時に被災者が所有する損壊した建物の解体費用を国や自治体が一部または全額を負担する制度です。この制度は、被災者が経済的負担を軽減し、早期に生活再建を図るための重要な仕組みとして位置づけられています。
具体的には、地震や台風、洪水等の自然災害により損壊した家屋や建物を所有する住民が、市町村に申請を行い、その後に国や地方自治体が費用を負担する形で解体が進められます。公費解体の対象となるのは、倒壊の危険性が高い建物や公共の安全に支障をきたす可能性のある建物等、一定の基準を満たすものに限られます。

能登半島地震における公費解体の現状

能登半島地震では、多くの家屋が損壊し、一部では倒壊も見られました。被災地では、生活再建に向けた支援が進められる一方で、損壊した建物の解体が遅れている現状があります。これは、公費解体の手続きが煩雑であることや、自治体の対応が追いついていないことが原因とされています。
特に、能登半島のような過疎地域では、自治体のマンパワー不足が顕著であり、公費解体の申請や手続きに対応する人員が限られていることが問題となっています。また、被災者自身も高齢化が進んでおり、手続きに不慣れなことから、申請が滞るケースも多く見受けられます。
なお、電話での申請予約期限および申請受付期限は令和6年9月30日までとなっています。

能登半島地震の公費解体の対象は?

公費解体の対象者は、災害で建物が損壊した被災者で、以下の要件を満たす場合に該当します。具体的な条件は自治体によって若干異なる場合がありますが、一般的な基準を以下に示します。

対象者の基本要件

被災建物の所有者:
対象者は、地震や台風などの自然災害によって損壊した建物の所有者である必要があります。賃貸物件の場合は、所有者が申請を行うことになります。

被災証明書の取得:
対象者は、自治体から発行される「罹災証明書(り災証明書)」を取得している必要があります。この証明書は、建物の損壊状況を証明するもので、公費解体の申請には必須です。

損壊の程度:
建物の損壊の程度が、自治体の定める基準を満たしていることが必要です。一般的には、全壊や大規模半壊などの大きな損壊が対象となります。軽微な損壊では公費解体の対象外となる場合が多いです。

対象建物の条件

・個人の家屋
罹災証明書で「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」と判定された家屋とその基礎、そして住宅と併せて解体する場合のみ、家屋に付属する浄化槽・便槽、地下室なども対象となります。
他に災害廃棄物処理の観点から解体が必要な建物として、災害後、被災建物が残ることで地域の復興や生活環境に悪影響を及ぼすと判断される場合も、公費解体の対象となります。

・中小企業・公益法人等の事業用建物
罹災証明書で「半壊」以上かつ生活環境保全上解体・撤去が必要と認める事業所等とその基礎、そして事務所等と併せて解体する場合のみ事務所所等に付属する浄化槽・便槽なども対象
になります。

特殊な条件

共同所有の場合:
建物が複数人で所有されている場合、すべての所有者の同意が必要です。共有者の中に異議を唱える者がいると、公費解体が進まない場合があります。

空き家・無人家屋:
災害時に無人であったり、長期間空き家となっていた建物でも、周囲に危険を及ぼす可能性がある場合には対象となることがあります。ただし、これも自治体の判断に依存するため、具体的な条件は確認が必要です。

低所得者や高齢者の特例:
自治体によっては、低所得者や高齢者が所有する建物に対して、手続きの簡素化や優先的な対応が行われる場合があります。

対象外となる場合

保険やその他の支援による解体が可能な場合:
建物が保険でカバーされている場合や、他の支援制度を利用できる場合、公費解体の対象外となることがあります。

損壊の程度が軽微な場合:
軽度な損壊であり、解体の必要がないと判断される建物は、公費解体の対象にはなりません。

公費解体の対象者となるかどうかは、個々の状況や自治体の基準によります。そのため、該当するかどうかを確認するためには、早めに自治体に相談し、適切な手続きを進めることが重要です。

公費解体の申請の流れと必要なもの

公費解体の申請方法と必要な申請書類について、以下のようにまとめます。

公費解体の申請手続きの流れ

申請書の提出:
被災者は、自治体が提供する公費解体の申請書を記入し、提出します。申請書は、自治体のホームページや役所の窓口で入手可能です。

※能登半島地震の公費解体に関しては、市町村によって申請予約の受付期限が異なります。対応時間は平日の9時~17時までであることが多く、土日、祝日は受付していない可能性が高いです。詳細はお住まいの市町に確認をお願いします。期間中である場合は設けられている公費解体専用ダイヤルへお電話いただき、ご希望の申請日及び時間で予約が必要です。

現地調査の実施:
自治体の担当者が申請内容を確認するため、現地調査を行います。建物の損壊状況や危険性を判断し、解体の必要性を評価します。

申請の審査・承認:
自治体が申請内容を審査し、要件を満たしているかどうかを確認します。審査に通れば、解体が承認されます。

解体業者の選定・契約:
自治体が解体業者を選定し、契約を結びます。業者による解体作業が進められ、作業終了後、確認が行われます。

費用の精算:
解体が完了し、作業内容の確認が取れた後、費用の精算が行われます。公費でカバーされる分を除いた残額があれば、それを被災者が負担することになります。

解体・撤去着手

被災家屋の場所や立地条件により着手時期は異なり、二次災害防止等の観点から工事への着手の順番は受付順とは限りません。
また、残置された家財や家電、思い出の物や貴重品などについては、工事前に被災者が持ち出す必要があります。

公費解体の申請時に必要な書類

申請に必要な書類は、自治体によって若干異なる場合がありますが、一般的には以下のものが必要です。

申請書:
公費解体を希望する旨を記載した申請書が必要です。必要事項を記入し、提出します。

被災証明書:
申請者が被災者であることを証明するための書類です。これには、自治体が発行する「罹災証明書」が該当します。罹災証明書は、被災した建物の損壊状況に応じて発行されます。

建物の所有権を証明する書類:
建物の所有者であることを証明するための書類が必要です。通常は、土地登記簿謄本や固定資産税の納税通知書が該当します。

申請者の印鑑登録証明書
発行から3ヶ月以内の原本。法人の場合も必要です。

身分証明書:
申請者の本人確認のための身分証明書(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)が必要です。

解体予定建物の写真:
被災した建物の現状を示す写真が必要です。これは、損壊の程度を確認するために用いられます。

その他の証明書類:
自治体によっては、所定様式の建物の設置年や構造を示す書類(建築確認済証や設計図書など)を求められる場合があります。また、建物が共同名義で所有されている場合は、他の所有者からの同意書も必要です。

申請の際の注意点

期限を守る: 公費解体の申請には期限が設けられることが多いため、早めに手続きを進めることが重要です。

不備のない提出: 書類に不備があると、申請が遅れる原因になります。不明点があれば、事前に自治体に相談しておくと良いでしょう。

自治体との連絡を密に: 申請後も、自治体との連絡を密に保ち、手続きがスムーズに進むよう努めることが重要です。

公費解体の申請は、被災者にとって複雑に感じるかもしれませんが、自治体や支援団体の協力を得ながら進めることで、負担を軽減できます。

公費解体における課題

手続きの煩雑さ

公費解体の手続きは、書類の準備や各種証明書の提出が必要であり、被災者にとって大きな負担となっています。特に高齢者が多い地域では、書類の準備が困難であることから、申請が進まないケースが多いです。また、手続きに関する情報が不足しているため、住民がどのように申請を進めれば良いのか分からないという状況も発生しています。

自治体の対応力不足

過疎地域では、自治体の職員数が限られており、被災後の対応が追いつかないことが問題です。公費解体の申請を受け付ける窓口も十分に設けられておらず、申請が滞る原因となっています。また、被災者に対する情報提供や支援が不足しているため、住民が自ら積極的に申請を行うことが難しい現状があります。

解体業者の確保

解体業者の確保も大きな課題です。災害時には、被災地全体で解体が必要となるため、業者の手が回らないケースが多々あります。特に、能登半島のような地方では、解体業者の数が限られており、解体の順番待ちが発生することもあります。また、業者の間での価格競争が激化し、費用が上昇する可能性も指摘されています。

廃棄物の分別

災害廃棄物は可能な限りリサイクルする必要があります。そのため、解体・撤去・運搬・受入・処理までの段階で分別を実施しなければならず、解体業者から分別ルールが平時よりも厳しいという声があります。
作業スピードやコスト、リサイクル率などを考慮した上で、分別ルールを決定する必要があります。

公費解体と自費償還制度の違い

地震により損壊した住宅等の解体や撤去には、公費解体の他に自費償還制度というものもあります。
自費償還制度とは、被災者が一時的に自己負担で行った災害対応に係る費用の一部または全部を、後から国や自治体が償還(払い戻し)する制度です。この制度は、災害時に被災者が迅速に復旧作業を進められるよう支援する目的で設けられています。以下、詳細について説明します。

自費償還制度の概要

自費償還制度は、災害後に被災者が緊急的に行った解体や修繕、廃棄物やごみの処分などの作業にかかった費用を、自治体や国が事後的に償還する仕組みです。これにより、被災者が迅速に復旧作業を進め、生活再建を図ることが可能になります。

自費償還の対象となる費用

自費償還制度で対象となる費用には、主に以下のものが含まれます。ただし、自治体ごとに対象範囲や条件は異なる場合があります。

解体費用:
損壊した建物や構造物の解体にかかる費用。

修繕費用:
損傷を受けた住宅や施設の修繕費用。ただし、緊急を要する修繕に限られることが多いです。

廃棄物処理費用:
災害によって発生した廃棄物の収集や処理にかかる費用。

その他:
災害対応のために必要と判断される費用(例:仮設トイレの設置費用など)。

自費償還制度の利用条件と注意点

自治体の基準:
自費償還が適用されるかどうかは、自治体の基準に依存します。すべての支出が償還の対象になるわけではないため、事前に自治体に確認することが重要です。

申請期限:
自費償還制度には申請期限が設けられることが多いため、速やかに手続きを行う必要があります。期限を過ぎると、償還が受けられない場合があります。

償還率:
自費償還制度では、支払った費用の全額が償還されるとは限りません。償還率は自治体によって異なり、一部自己負担が求められることがあります。

申請手続きの複雑さ:
必要な書類や手続きが複雑な場合があり、高齢者や手続きに不慣れな被災者にとっては負担になることがあります。自治体や支援団体に相談することが推奨されます。

自費償還制度の意義

自費償還制度は、被災者が災害直後に必要な対応を迅速に行うための経済的支援を提供する重要な制度です。この制度があることで、被災者は費用面での不安を抱えずに復旧作業に着手することができます。ただし、申請手続きがスムーズに進むよう、自治体としっかりと連携することが必要です。

公費解体の今後の展望

今後、公費解体制度をより効果的に機能させるためには、以下のような対策が必要です。

手続きの簡素化

手続きの煩雑さを解消するために、書類の簡素化や、デジタル化による申請手続きの効率化が求められます。また、自治体が被災者に対してより積極的に情報提供を行い、支援を行う体制を整えることが重要です。

自治体の支援強化

自治体の対応力を強化するために、国からの支援が不可欠です。職員の増員や専門家の派遣などにより、自治体が迅速かつ適切に対応できる体制を整えることが求められます。また、地域の特性に応じた柔軟な対応が必要です。

解体業者との連携強化

解体業者との連携を強化し、迅速かつ適正な価格での解体を進めるための仕組みづくりが求められます。特に、災害時には事業者の確保が難しいため、前もって業者との協定を結ぶなどの対策が有効です。

まとめ

以上のように、能登半島地震を受けて被災地の復興はまだ始まったばかりです。公費解体制度は、被災者の生活再建に向けた重要な支援策ですが、その運用には多くの課題が存在しています。今後、これらの課題を克服し、より効果的な制度運用が求められます。被災地の住民が一日でも早く元のくらしを取り戻せるよう、国や自治体、そして地域社会が一丸となって取り組むことが必要です。
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